良い匂いのするものに惹かれることって結構ありませんか。
私はよくあります。
良い匂いのする人もそうなんですけど、それだけではなくて、花や果実、服、アロマなどの物に対してもです。
実は、私たちが何か対象を選択する時、匂いで決めていることがあります。
もちろん匂いだけではなく、見た目や手触りなどで選択する時もありますが、匂いに誘導されていることに気づかずに選んでいることが多いんです。
それを利用したマーケティングとして、オキシトシン商法というものがあります。
オキシトシン商法は、匂いをはじめ、その人がコントロールできない感情を揺さぶって商品などを買ってもらうものです。
では一体、なぜそのような現象が起きるのでしょうか。
そこには、「愛」が深く関わっています。
そこで今回は、匂いを中心に、気を付けるべきオキシトシン商法についてお伝えします。
僕らは匂いに騙される
実は匂いで人を選んでいる
相手に対して好意を抱く時、素敵だなと思う時ってどんな時ですか。
おそらく、瞬時に一言で理由を述べることはできませんよね。
なぜなら、見た目であったり、声のトーンであったり、雰囲気であったり…それらが自分の基準とマッチしたときに、いい人だなぁと感じるからです。
その要素の一つに、匂い(香り)があります。
しかも、その匂いを無意識に感じ取っていることが多いんです。
つまり、匂いによって相手に与える好ましさの印象が変わってくるということ。
それを証明した実験に、ノースウェスタン大学が行った研究があります。
香りによって相手に与える印象が変わるのか調査するため、次の5つの部屋と80枚の顔写真を用意した。
- ほのかにレモンの匂いが香る部屋(良い匂い)
- ほのかに男の汗の臭いがする部屋(不快な臭い)
- はっきりとレモンの匂いが香る部屋
- はっきりと男の汗の臭いがする部屋
- 無臭の部屋(比較対象のため)
被験者に対して各部屋で80枚の顔写真を見せ、それぞれ10点満点で評価してもらった。
その結果、⑤と比べ、①の部屋では全ての顔写真の点数が高かった。
一方、②の部屋の顔写真については、全て点数が低かった。
さらに、③と④の部屋の顔写真についても、点数は低かった。
この実験結果のように、私たちは対象を評価するとき、匂いもその条件の一つに入れているんです。
「それならば明日から香水をガンガンつけていこう!」
などと考えるかもしれませんが、強い匂いにも気を付けなければなりません。
良い匂いだとしても、③のように匂いがキツ過ぎると印象が悪くなるからです。
かすかな良い匂いを自分自身がが漂わせているか、かすかな良い匂いのする部屋で人と会うと、印象が良くなることでしょう。
なぜそのストッキングを選んだのか
匂いの実験に関して、もう少し事例を紹介します。
コルゲート大学が行った実験に、ニューヨーク在住の250人の主婦を対象に、ストッキングの品質を評価してもらったものがあります。
ニューヨークの250世帯を訪問し、主婦たちに4つのストッキングのうちどれが1番良いかを選んでもらった。
用意したストッキングは、実はどれも同じ商品のもの。
違うのは、それぞれに異なる匂いがわずかについているという点である。
- スイセンの匂い
- 果物の匂い
- サシェ(引き出しやタンスなど)の匂い
- 無臭
この結果、選んだ人数の割合は、①50%、②24%、③18%、④8%となった。
驚くべきことは、そのストッキングを選んだ理由が、「手触りが良い」、「スタイリッシュだ」などと視覚や触覚を理由に挙げる人が多く、匂いを理由に挙げた人は皆無だった点である。
なぜ、同じ商品のストッキングで匂いが違うのに、誰も匂いを理由にせずに、ストッキングの違いを理由に挙げたのか、疑問に思いませんか。
ここに私たちの落とし穴があります。
私たちが何か選択するとき、実は自分ではコントロールできない感情によって行動を取ります。
そしてその後、論理的に理由付けをするという習性があるんです。
匂いが感情を刺激していることに気づかないことが多く、匂いによって選択を誘導されていることもしばしばあります。
匂いは、防ぎようのない攻撃アイテムとも言えるかもしれませんね。
なぜ匂いに騙されるのか
匂いは愛情の一つ
なぜ知らぬうちに匂いに誘導されてしまうのか、それは匂いが愛情の一つだからです。
匂いが愛情の一つというよりも、愛情には匂いがあると言った方がいいかもしれません。
愛情と絆を深めるホルモンとして、オキシトシンという物質があります。
そしてこのオキシトシンには、私たちが意識しないと(いや、むしろ意識していたとしても)感じる取ることができない匂いがあるんです。
相手のオキシトシンを無意識に感じ取ったり、自分自身がオキシトシンを分泌することによって対象の信頼度が増します。
つまり、オキシトシンをはじめとした匂いは、対象との距離を縮める惚れ薬のようなもの。
惚れ薬を嗅いでしまうと、正常な判断を行うことが難しくなってしまうんです。
愛情は理性を麻痺させる
なぜ正常な判断ができなくなってしまうのか、それは愛情は理性を麻痺させるからです。
理性を麻痺させるというとなんだか悪いようなことに感じますが、良くも悪くも働きます。
例えば理性(論理)だけで物事を考えようとすると、必ず不安や緊張に襲われます。
そのような時に、「自分一人じゃないんだ」などと愛情を感じることによって、ストレスが和らぐんです。
また、オキシトシンが分泌されると、初対面の相手でも恐怖を感じることなく、信頼を築きやすくなります。
オキシトシンは通称、愛と絆を深めるホルモンと言われているだけあって、人との距離を近づけてくれるんです。
一方で、愛情に溺れると、その裏返しとして妬みや恨みに発展するので注意しなければなりません。
「なんで私はこんなに好きなのに、あなたは私を愛してくれないの?」
などと、相手の愛情をさらに欲する麻薬のような働きもしてしまいます。
こうなってしまうと、物事を正常に判断できなくなります。
さらに、人に依存することになるため、騙されやすくなります。
愛情によって理性が麻痺することで、ストレスが軽減できて前向きに考えられるようになりますが、その度が過ぎると妬みなどの負の感情を抱きやすくなったり騙されやすくなってしまうんです。
愛情がなくなった人の末路
「感情に左右されるなんて嫌だ、愛情なんてない方がいい。」
と思うかもしれませんが、正しい愛情はあればあるほど良いです。
では、愛情がなくなると人はどうなるのか。
結論から言うと死にます。
生きていくのが困難になるという度を超えて、死んでしまうんです。
第二次世界大戦後に、戦争孤児となった55人の赤ちゃんを対象に、今なら絶対に許されないことを行った研究があります。
それによると、撫でたり抱きしめたりという愛情を込めたスキンシップを一切取らないとどうなるのか観察したところ、なんと成人を迎える前に44人の人は亡くなってしまいました。
愛情は、私たちを成長させるために欠かせないものなんです。
絆(愛情や信頼など)を感じる時には、相手からのオキシトシンを受け取った時又は自分がオキシトシンを分泌している時、もしくはその両方が起きている時です。
なので、男性でも女性でも誰でも絆を感じることができます。
とりわけ母子の間には、絆が生まれやすくなっています。
なぜなら、母乳を与える時にオキシトシンが分泌されるからです。
赤ちゃんが母乳を吸う時に、母親の乳首を刺激します。
すると、この刺激が脳内を経て血液中でのオキシトシンが分泌され、母乳が出るようになります。
またオキシトシンは、血液中だけでなく脳内にも分泌されて、結果として母と子の絆が深まるようになります。
なお、粉ミルクだけで赤ちゃんを育てた場合、オキシトシンは分泌されにくくなり、絆は薄くなってしまいます。
母乳で育てることによって、より強い絆で結ばれるようになるのです。
気を付けるべきオキシトシン商法
匂いで投資意欲が高まった理由
愛情という弱みに付け込んだオキシトシン商法というものがあります。
オキシトシンが分泌されると、対象の信頼度が上がることを利用した商法です。
オキシトシンがどれくらいの効果をもたらすのかを確かめるため、チューリッヒ大学が行った実験に次のようなものがあります。
行動経済学の授業で投資ゲームを行い、オキシトシンの匂いを嗅いだ学生と嗅いでいない学生との間に、投資金額などの行動の変化が起きるのかを調査した。
実験は、2種類行われた。
- 受託者(人間)を対象にどれくらいの金額を投資するか
- コンピュータを対象にどれくらいの金額を投資するか
結果、①では、オキシトシンの匂いを嗅いだ学生の方がそうではない学生に比べて多くの金額を投資した。
一方②では、オキシトシンの匂いを嗅いだ学生もそうではない学生も、投資金額にそれほど差が生じなかった。
つまり、オキシトシンの匂いを嗅いだ学生は、金遣いが荒くなったわけではなく、人に対しての信頼度が上がり、結果として投資金意欲が高まったということである。
オキシトシン商法は匂いだけではない
今回の話は匂いを中心に話していますので、もしかするとあなたは、オキシトシン商法は匂いを利用したものと思っているかもしれません。
しかし、オキシトシン商法は匂いで誘導するだけではなく、オキシトシンが分泌されて信頼度を上げることを目的としています。
その代表的なものに、AKB商法というものがあります。
(アイドルの方々を批判するつもりは決してないことをご理解ください。)
AKB商法とは、例えばCDに握手会のチケットや投票券などのおまけがついていて、ファンはCD本体ではなく、おまけを目当てに複数購入するものです。
もう少し身近なものでいうと、チョコや雑誌などについているカードやシールを目当てに複数購入するようなもの。
これは、あなたにも経験があるのではないでしょうか。
AKB商法の場合は、握手会などで実際にアイドルの方に触れることができ、オキシトシンが分泌されます。
これまでにあまり触れていませんでしたが、人と接することによってオキシトシンがセロトニンやドーパミンなどのホルモンと共に分泌されます。
すると、幸福、信頼、愛などを感じるようになり、さらにおまけ商品を目当てに購入するようになるという循環に陥ります。
ちなみにここで感じる愛は、自分自身で作り出している偽りの愛、幻想の愛ですので、それに溺れないように注意しなければなりません。
なんかAKB商法を悪いような感じで言ってしまいましたが、ビジネス的にはこれを目指して行うと盤石になることでしょう。
実は、AKB商法をはじめとしたオキシトシン商法は、これまでの学問ではなかなか説明しづらいものなんです。
学問は論理的に考えますよね。
オキシトシン商法は感情に作用するもののため、学問の陣地を超えているということです。
AKB商法の他には、オレオレ詐欺(振り込め詐欺)などもオキシトシン商法に含まれるでしょう。
(AKB商法とオレオレ詐欺を並べることにかなり抵抗を感じますが…)
オレオレ詐欺の場合、「息子が困っているなら」と、愛情という弱みに付け込んで騙してお金を振り込ませます。
「オレオレ詐欺ってこれまた古い時代だな。」
と感じるかもしれませんが、詐欺の認知件数は、無くなるどころか今も増え続けています。
それほど、愛情を欲する脳のメカニズムを利用した手口は、世の中に横行しているということです。
まとめ
最後はオキシトシン商法という少し難しい話をしてしまいましたが、要はまずは匂いに気を付けましょうということです。
といっても、残念ながら防ぎようがありません。
論理的にはなかなか理解しがたい、感情の部分に直接作用されるものだからです。
それを逆手にとって、異性に人気を得たいのであれば、ほのかな香りを身にまとうと良いでしょう。
男性であればローズ、女性であればシトラスの香りをほんの少しだけ付けます。
「あれ?逆じゃないですか。」
と思うかもしれませんが、合っています。
男性がローズ、女性がシトラスの香りをつけると異性に好意を持たれやすくなります。
その時に、決して匂いを付け過ぎないように注意してくださいね。
『実は匂いで人を選んでいる』で話したとおり、キツ過ぎるニオイは良い匂いであれ不快な臭いであれ距離を置かれてしまいます。
最も注意しても防ぎきれないものが、オキシトシンが発する匂いです。
匂い=オキシトシンではなく、オキシトシンは私たちが意識できない匂いを発しているということですので、お間違いのないように。
もし、オキシトシン商法に引っかかりたくないということであれば、なるべく愛情を欲しないようにするということ以外対策がないような気がします。
愛情を求めすぎると相手に依存することになり、オキシトシン商法の甘い罠にかかることになるからです。
ただ、愛情を欲しないようにすると人間味がなくなってしまいますし、愛情を受けられないと死んでしまうので、愛情を欲する以上に人に愛情を与えようとしてはいかがでしょうか。
なかなか難しいかもしれませんが。
愛情を受け取る時にも与える時にもオキシトシンは分泌されます。
「愛情を欲する以上に愛情を与える」と格好つけて言ってみたところで、お後よろしいようで。
匂いで人を操る?!知らぬうちに誘導されるオキシトシン商法 まとめ
- 実は匂いで人を選んでいる
- 感情でモノを選んで理由を後付けしている
- 匂いは愛情の一つ
- 愛情は理性を麻痺させる
- 人は愛情がないと死んでしまう
- オキシトシンの匂いによって相手への信頼度が増す
- 人に触れることによってもオキシトシンが分泌される
- 愛情を受け取る時にも与える時にもオキシトシンは分泌される
- 愛情は受け取るより多く人に与える
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